2025年11月、中国の自動車業界を揺るがす出来事が起こりました。中国の自動車メーカーChery(チェリー)が、天門山の有名な「天国への階段」と呼ばれる999段の階段を車で登るチャレンジに挑戦したものの、階段を破損させる事故を起こしてしまったのです。
この事件は中国国内だけでなく、SNSを通じて世界中に拡散され、大きな話題となりました。なぜこのようなチャレンジを行ったのか、そして何が失敗の原因だったのでしょうか。
天国への階段チャレンジ事件の内容

事件の概要
2025年11月12日、CheryはSUVモデル「Fulwin X3L」を使って、中国湖南省張家界市にある天門山の999段の石段を登るパフォーマンスを実施しました。
しかし、チャレンジの途中で安全ロープのシャックルが外れてしまい、ロープが車輪に絡まるというトラブルが発生。車両が制御を失って後退し、ガードレールに衝突してしまいました。
この事故により、以下の被害が発生しました。
- 階段の石が一部剥がれ落ちる(約2段分の損傷)
- ガードレールの破損
- 観光エリアが2日間閉鎖される事態に
幸いにも怪我人は出ませんでしたが、UNESCO登録の景勝地である天門山の文化財を破損させたことで、Cheryは厳しい批判にさらされることになりました。
Cheryの対応
事件の翌日である11月13日、Cheryは迅速に公式声明を発表しました。
声明の中で同社は「リスク評価が不十分だった」「計画に不備があった」と失敗の原因を認め、破損したガードレールの修理費用とすべての補償を負担することを約束しています。
また、公的な景勝地でこのようなテストを実施したこと自体について深く反省する姿勢を示しました。
中国の自動車メーカーChery(チェリー)とは

Chery(奇瑞汽車)は、1997年に設立された中国を代表する独立系自動車メーカーです。
Cheryの特徴
- 本社所在地:中国安徽省蕪湖市
- 2024年販売台数:約215万台(前年比38.6%増)
- 輸出実績:108万台で中国ブランドとして世界1位
- 展開国:80カ国以上
Cheryは外国資本に依存せず、自社で技術開発を行う「自主ブランド」として成長してきました。中国国内ではBYDに次ぐ第2位の規模を誇り、「中国のトヨタ」とも称されることがあります。
日本市場への進出
実は、Cheryは2025年春から日本市場への本格進出を予定しています。
「OMODA」(オモダ)と「JAECOO」(ジェイクー)という2つのブランド名で展開され、価格帯は300万円から500万円程度と予想されています。
コストパフォーマンスの高さを武器に、日本の自動車市場に新たな選択肢を提供しようとしていた矢先の出来事でした。
今回使用された車両
天門山チャレンジで使用された「Fulwin X3L」は、Cheryが誇る最新のPHEV(プラグインハイブリッド)モデルです。
- エンジン出力:422馬力
- 価格:約16,500ドル(約250万円)
- 技術:C-DMハイブリッドシステム搭載
この車両の性能をアピールするために、今回のチャレンジが企画されたのです。
レンジローバーのドラゴンチャレンジとは

実は、Cheryの今回のチャレンジには「お手本」がありました。それが、2018年にイギリスの高級車ブランド、レンジローバーが成功させた「ドラゴンチャレンジ」です。
ドラゴンチャレンジの概要
2018年2月、レンジローバーは同じ天門山で、「Range Rover Sport PHEV」を使った前例のないチャレンジを実施しました。
- コース:99のヘアピンカーブを持つ山道11.3km + 999段の階段
- 所要時間:22分41秒
- 結果:完全成功、一切の損傷なし
このチャレンジは「世界で初めてSUVが999段の階段を登り切った」という記録として、今でも語り継がれる伝説となっています。
成功の要因
レンジローバーのドラゴンチャレンジが成功した理由は、徹底的な準備にありました。
使用車両の特徴
- エンジン出力:400馬力(2.0Lガソリン+電動モーター)
- トルク:640Nm
- 特別装備:Terrain Response 2システム(路面状況自動適応)
- タイヤ:高性能ミシュランタイヤ
ドライバーの技術
- プロレーサーのHo-Pin Tung(ル・マン24時間レース優勝者)を起用
- 霧がかかる悪条件の中でも精密なコントロールを実現
入念な事前準備
- 複数回のシミュレーション
- 綿密なリスク評価
- 地元当局との十分な調整
レンジローバーは単なるスタントではなく、PHEVの技術力を証明する実験として、完璧な準備のもとでチャレンジを成功させたのです。
世界への影響
ドラゴンチャレンジの動画はYouTubeで数百万回再生され、レンジローバーのブランドイメージを大きく向上させました。
「不可能を可能にする技術力」というメッセージは、世界中の自動車ファンの心に強く刻まれることになったのです。
天国への階段チャレンジをした理由

では、なぜCheryはレンジローバーと同じチャレンジに挑んだのでしょうか。その背景には、中国自動車業界が抱える深刻な課題がありました。
ブランド認知度の低さ
Cheryは販売台数こそ215万台と大きな規模を誇りますが、国際的なブランド認知度が非常に低いという問題を抱えています。
販売の多くはロシアや中東、南米などの新興国市場で、日本や欧米などの先進国市場ではほとんど知られていません。
技術力と信頼のギャップ
Cheryは自社開発のエンジンやPHEV技術を持っており、技術力そのものは年々向上しています。
しかし、消費者からの信頼や「高品質」というイメージは、なかなか獲得できていません。この「技術はあるのに信頼されていない」というジレンマが、Cheryの大きな悩みでした。
一発逆転を狙ったマーケティング
レンジローバーのドラゴンチャレンジの成功例を見て、Cheryは考えました。
「同じ場所で同じチャレンジを成功させれば、レンジローバーと肩を並べる技術力があることを証明できる」
特に、2025年春に予定されている日本市場への進出を控え、国際的な注目を集める絶好の機会だと判断したのです。
422馬力という高出力のPHEVモデルを投入するにあたり、その性能を視覚的にアピールする方法として、このチャレンジが企画されました。
結果として、Cheryは「技術力を証明する」どころか、「準備不足で文化財を破壊する無責任な企業」というイメージを世界中に発信してしまったのです。
天国への階段チャレンジが失敗し批判の的に
天国への階段チャレンジの失敗は、Cheryに大きな代償をもたらしました。
ブランドイメージの悪化
中国国内のSNSでは「恥ずかしい」「文化財を何だと思っているのか」という批判的なコメントが殺到しました。
特に、自国企業が自国の文化遺産を破損させたことに対する失望の声が大きく、「外国企業のレンジローバーは成功したのに」という比較も多く見られました。
日本進出への影響
2025年春から予定されている日本市場への進出にも、暗い影を落としています。
日本のメディアでも「中国車メーカーが文化財破壊」として報道され、Cheryという名前が最悪の形で日本に知られてしまったのです。
本来であれば「高性能でコスパの良い新しい選択肢」として紹介されるはずが、「技術力に疑問符がつく企業」という先入観を持たれる可能性が高まりました。
競合他社との比較
中国の自動車メーカーの中でも、BYDは日本市場で着実に実績を積み上げています。
- 2023年から日本進出
- バスやタクシーでの実績を地道に構築
- 「世界最大のEVメーカー」という明確なブランドメッセージ
Cheryの失敗は、同じ中国メーカーであるBYDとの差を際立たせる結果にもなってしまいました。
まとめ
中国の自動車メーカーChery(チェリー)による天門山の999段の階段チャレンジは、残念ながら失敗に終わりました。
レンジローバーのドラゴンチャレンジという成功例を模倣しようとしたものの、準備不足とリスク管理の甘さから、階段とガードレールを破損させる事故を起こしてしまったのです。
この事件は、技術力のアピールには、単なる性能だけでなく、徹底的な準備と文化への敬意が不可欠であることを示しています。
Cheryは迅速に謝罪し補償を約束していますが、失われた信頼を取り戻すには、長い時間と地道な努力が必要となるでしょう。
2025年春に予定されている日本市場への進出が、この失敗をどう乗り越えるかの試金石となります。今後のCheryの対応に、注目が集まっています。

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